かけるかな

茶の間からポエム

自慢の推しだった女の子

自慢の推しだった女の子の話をしたいと思う。

 

その女の子のことを知ったのは、私服の写真を集めたnaverまとめがきっかけだった。それを見て、すぐにこの子を応援しようと決めた。私服がね、あまりにもドンピシャすぎたんだ。加えて、まあるい輪郭やクシャっとした笑顔がかわいらしくて、まさに「キュート」という言葉が似合うビジュアルにも惹かれた。

 

単純にオシャレと言われるアイドルちゃんとは次元が違っていた。その子はアイドルなのに、男性ウケなど無視した服ばかり着ている。オーバーサイズのブルゾン、派手な古着アイテム、謎の柄物、ドクターマーチン…。案の定、ネット上には「その子が本当にオシャレなのか否か」が議論されたまとめブログが多数存在していたし、Twitterにもそのようなつぶやきが散見されたし、知人の男性に推しの私服の写真を見せたときも「サイズの合った服を着ろ」と言われたものだった。でも私は、彼女のそういうところが好きだった。

 

なんだろう、今では女のオタクも多い女子ドル界隈だけれども、やっぱり男の人のオタクが多くて。そんな中で自分を貫く彼女が、所属するグループにおいて「欠かせないメンバー」として評価されることを、期待していたのかもしれない。初めて買った雑誌が『Zipper』だった私は、あと何年かしたら20代も終わるというのに、未だにコンサバに舵を切れないでいる。かわいいと思うものも、全然キラキラしていない。パールの入ったアイシャドウも、全然持っていない。キラキラできない、しない、したことない私は、知らず知らずのうちに推しに希望を託していたのかな。なんて、今になって思う。

 

その一方で、推しはアイドルの才能もあった。幼いころからバレエで鍛えたダンスや表現力。しなやかで、キレもあって、曲や振りに合わせてコロコロと表情が変わって、美しかった。スッと伸びた背筋とぴょこぴょこと跳ねるポニーテールが好きだった。普段は全然着ないのに、キラキラした衣装も似合っていたし、雑誌でスタイリングされた女の子らしいコーディネートも着こなしていた。

 

推しのアイドル人生のなかで、グループのシングル表題曲に参加できたのは半分強。私が注目し始めてからの推しは、表題曲ではだいたい3列目の端っこにいたけれど、ダンスが全然わからない私でも、本当に目を引くものがあったんだ。明るい曲のときはちゃんと世間一般のアイドルと同じように、ニコニコと笑ってもくれる。歌は不安定かもしれなかったけれど、声がすごく、かわいかった。

 

友人がアイドルでない用事で、小さなライブハウスへ行ったとき、近くにいた業界人が私の推しのことを「アイドルだと今あの子がアツい」と話していたことがあったという。カルチャー誌でクリエイターと対談をする連載を持っていたし、たびたびモード系のファッション誌にも登場した。外部の映像作品にもいくつか出演し、賞を取ったものもある。どんどん見つかっていくのがうれしかった。

 

今年に入ってからはグループ内での仕事も目に見えて充実していた。在籍するメンバーひとりひとりにスポットを当てたショートムービーが話題になってCMまで作られたり、グループの顔とされるメンバーたちと並んでメインキャストとして映画に出演したり、シングル表題曲では、3列目ではあったものの中心でダンスを踊ったり、そのあとは初めて2列目に選ばれたこともあった。そして、グループ初の個展開催。

 

推しがアイドルを辞めることを発表したのは、その個展の情報が解禁になってすぐだった。

 

なんとなく、卒業がそう遠くない未来にあることは感じていたし、アイドルグループの看板を外しても活躍が期待できるくらい実績を重ねていた。だからそこまでの驚きはなかったし、「おめでとう」と言いたい一方で、まだ21歳なのにもうアイドルを辞めてしまうのか、もっとあの子のダンスを見ていたかった、と、寂しさもつのった。

 

アイドルの卒業発表から実際の卒業まで猶予があることも多いが、私の推しは、その猶予がたったの3か月しかなかった。その時点ではもう、残された握手会も完売していて、あまり現場主義ではなかったけれど、お礼の一言も直接言えないのがもどかしかった。それからは、歌番組への出演も減り、年末の音楽特番をいくつか見ても、推しのポジションに、推しはいなかった。

 

潔い子だから「アイドルとしてできることはやり切った」と言っていたし、卒業する自分よりも、未来を担う後輩たちの露出を増やしてあげたい、そんなことを思っているのかな、だからもうテレビにも出ないのかもしれない。でも、やっぱり最後に推しが躍る姿を見たかった。

 

推しの卒業前最後に、グループとして出演することが発表されていたのは『ミュージックステーション SUPER LIVE』。Twitterにアップされたリハーサルの写真にも、階段を降りてくるときも、タモリさんとのトークのときにも、推しはいなかった。

 

でも、曲が始まったら、あの子が踊っていた。

 

当人はオタクを驚かせたかったらしい。確かに、最高のサプライズだったし、最高のクリスマスプレゼントをもらった気分だった。踊る姿をまた見られて、ほんとうによかった。

 

 

乃木坂46を卒業した、伊藤万理華ちゃん。


もし万理華ちゃんがアイドルでなくても、ひとりのおしゃれな女の子と認識して、あなたのファンになっていたかもしれない。けれど、万理華ちゃんがアイドルじゃなかったら、こんなにも熱を上げて応援していなかったのだろう、と思います。競争の激しい世界で、才能とセンスを武器に露出の機会を増やし、いろいろな面を見せてくれたから、万理華ちゃんのことを応援したい気持ちが膨らみ続けたのです。選抜発表のたびに一喜一憂して、テレビ番組で踊る万理華ちゃんを探して、アップで映るとうれしくて。口下手なアイドルを推したのは初めてで、でも万理華ちゃんが表現するものはみんな私をワクワクさせてくれました。正直なところ、歌って踊る姿を見られなくなるのは寂しいけれど、これからどんな場所で万理華ちゃんの姿を見られるのか、楽しみでしょうがないのです。万理華ちゃんを推した3年弱、ほんとうに楽しかった。こんなにも楽しい時間を過ごさせてくれた万理華ちゃんは、私の自慢の推しです。歩む道が充実したものであることを、万理華ちゃんが幸せであることを願っています。がんばれ!